ONE BY ONE  short×short



カカシ・暖かい夕日 編























「はぁ〜…やりすぎちゃったかな」



壁を手で伝いながら、一歩一歩を噛み締めるように歩く。


自分が今、どこに向かおうとしているのか―それも定かではない。


ただその先を求めて足を出す、それのみである。






























その次に、意識を戻したときに目に入ったものは天井。

“ああ、またここか”、そう心で呟きながら窓から差し込んでいる夕日に銀髪上忍は目を細めた。


確かにちょっと今日の任務は無理をしたかもしれない。
戦いを早く切り上げたくて、写輪眼を少し頑張って使ったような気がする。
それでもなんとか、里に戻ってきたし、報告書も出した。そこまでの記憶ははっきりしている。

―そこからどうなったんだっけ?

近くに誰かがいた気がしない。
僅かに残る記憶の中では、自分はどこかを目指して歩いていた気がする。



「………んっ」


まだ不鮮明な頭の中であれこれ考えていると、ふいに髪に何かが触れた。
そのどこか気持ちのよい動きに思わず銀髪は声を上げた。


「あっ、カカシさん起きましたか?」


髪に触れた何かと同じように温かい、気持ちのよい声色。
まるでずっと求めていたようなそれ。
銀髪はだんだん眩しさに慣れた目をその声色を確かめるように視線を動かした。


「…もしかして起こしちゃいましたか?」


髪を流れるように触れていた手がぴたりと止まり、様子を窺うようにまた声が掛かる。
そこでやっと、銀髪とその声の主の目が合った。


「…?」

「はい?」

「なんでっ…?ん、ここは病室じゃない…!?」


勢いよく、ガバッと銀髪が上半身を起こす。
その行動に声の主は目を見開きながら、先ほどまで銀髪の頭にあったその右手を宙に浮かしていた。




「…カカシさん?」




少しの間を置いてから、未だ状態を起こしたまま、何かをぼーっと考えている様子の銀髪上忍の背中に向かってそっと声を掛ける。
呼ばれた銀髪は呼吸を1つ、ゆっくり付いてから振り返った。


「あの…覚えてないですか?ここに来たこと…?」

「んー…そうみたい。教えてくれる?」


少し気まずそうに頭をぽりぽりと掻きながら銀髪がそう言えば、その女特上は優しく微笑んで話し始めた。





「……任務終わりにここに来たオレはそのまま倒れたってこと?
 それで今までに膝枕をしてもらってた、と…?」


話を聞いてもまた、気まずそうに銀髪が苦笑いを浮かべる。
そんな様子を見ながら微笑んでいる女特上は“はい”と答えた。


「…なんか悪かったね。迷惑掛けちゃって…」

「いいえ。今日の任務、大変だったってイルカさんに聞きましたし。
 …でもどうしてここに来たんですか?何か用があったんじゃ…」


そう問われて銀髪はまた何かを考えてみるが、思い当たる節は全くなく。
その表情に女特上も何か悟ったようであった。


「とりあえずオレは家に戻って休むことにするよ。」


そう言って銀髪上忍はすっと立ち上がる。
いや、立ち上がるつもりだったが、ふらりとその身が揺らいだ。


「だ、大丈夫ですか!?」


女特上が銀髪の体を支えるように、その右手を自分の肩へ乗せ、腰に腕を回す。
“ごめん”、そう弱々しく、決まりの悪いような苦笑いを浮かべながら銀髪は呟いた。


「あの、まだ寝ていてください!それじゃとても帰れそうにありませんし。
 私の膝でよければ貸しますので!」


“膝枕”、それをしてもらえるという今の状況に、いつもの銀髪なら心が舞い上がって仕方なかっただろうが、今は違う。
ただ、“ごめんね”とまた消えるような声で言いながら、その言葉に甘えた。











暖かい夕日を受けながら、先ほどと同じように女特上の手が優しく髪を優しく撫でる。


その光景を細めた目でぼーっとしていた銀髪に、“邪魔ですか?”と女特上が問えば、
“ううん、逆だよ”と薄っすら笑みを浮かべながら答えてそこで銀髪の意識は途切れた。

「逆?」

そうぽつりと口にしてその意味を理解した女特上は、スースーと寝息を立てる銀髪の、
普段はあまり見ることのできない綺麗な顔立ちを眺めながら心の奥から込上げてくる感情に口元を緩めていた。





















次に銀髪が目を覚ましたときに、目に飛び込んできたのは、
明らかに殺意を含んだ視線を送る髭面上忍と、眉間に深い皺を寄せ、今にも銜えた楊枝を吹いてきそうな特上の顔であった。


































アトガキ
1人カカシ祭り、です。(笑)
いろいろ考えて狙って行動すれば空回り、実はそのままが1番よかったりする、そんな話です。








2006.6.26 up



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