虹の麓には宝物が


















「ちょうど雨も上がったか。」





ツーマンセルを組んでいたライドウが空を見上げて呟く。

ゲンマも握り締めていたクナイを仕舞うと同じように空を見上げた。
















木の葉隠れの里に侵入した不審者を追った末、戦闘。


雨という条件で、少し長引いたそれは今、やっと終わった。
湿度の高い空気の中を血の匂いが漂っている。


ゲンマはその鼻につく匂いに眉を寄せながら空を仰いだ。


 ピタリ、と止んだ雨

 雲一つなく広がる青空



太陽がすぐ上にあるのではないけれども、ゲンマは一気に明るさを取り戻した空に目を眇めた。






「おう、ゲンマ。あれ見てみろ。」







自分の斜め前に立っているライドウが木の葉隠れの里の方を指差し、そう言う。
ゲンマは見上げていた真上の空から、その指す方へと視線を動かした。




「虹、か。」


「綺麗なもんだな。」




長い付き合いから、顔は見えていなくとも、ふっとライドウが微笑んだのがわかる。
ゲンマもそれにつられるように少し頬を緩めた。






キラキラと輝くように架かる、7色の橋。
淡く、はっきりしないその色彩。






儚げに、まるで今にも消えてしまいそうなそれは、いい歳になった今でも心が止まるほど綺麗だと思った。
すーっと穏やかな気持ちへと誘ってくれる。
先ほどまでの血なまぐさいも忘れてしまうほど、だった。


はこれを見ているのだろうか


思い出すのは愛しい人の顔。
今ごろは里で、いつもと同じように店で働いているだろう。
この虹の架かった空には気付いただろうか。
自分たちと同じように手を止め、この空を見上げているのだろうか、などと頭に浮かんでくる。


 この空を、あの虹を見上げていたら

 はどんな顔をしているのだろうか…


虹よりもキラキラと目を輝かせて、今の自分よりも頬を緩ませて。
眩しそうに目を細めながらも、優しく、嬉しそうに微笑んで、その全身で“感動”を表現するの姿。


ゲンマはそんなの姿を想像して、ふっと鼻を鳴らして緩んでいた頬をもっと緩ませた。
それに気がついたライドウが振り返り、何かを問いたそうな顔を浮かべたので、“なんでもねぇ”とだけ答えて、
ただ虹を眺めていた。


 虹と共に見えるのは、のいる里の町並み


決して見えるはずのない、の姿を探すように、
決して伝わってくるはずのない、の香りを探すように、虹の架かる里を眺める。


に早く会いたい”


そんなことを思う柄じゃない、と自分でわかっていながらも今はただそう願う。


 この虹を一緒に見上げられたら…

 見上げたを見ることができたなら…


ゲンマは虹から視線を下ろすと、1つ息をついた。







「…戻るか。」


「そうだな。」







ライドウが答えるより早く、ゲンマは足を前に踏み出す。

その先の里を目指して。

















この虹が消える前に



この虹の麓にいる



この虹を―























アトガキ
web拍手のお礼小咄として、公開していたお話です。
お題の“宝物”は要するに…、ということです。(笑)
お題を見てそれしか想像できなかったです。

登場もなく、名前変換も少なくてすみません…!





2006.7.14 up
2006.7.29 加筆修正



虹の麓には宝物が*close