「あー、なんだかがいないとつまんない。」

天井へ視線を向けながら、読んでいた18禁本をカカシはその顔に乗せた。

「カカシはいいんじゃねぇーか?がいたらそんな本、読めねぇだろ?」

プカーと、口から紫煙を吐き出し面倒臭そうにアスマがカカシの言葉に答えた。

「アスマさんだってがいないからそんだけ煙草が吸えるんじゃないですか?」

両手を座っているソファの背に伸ばしながら、楊枝を上下させているゲンマがアスマの言葉に答えた。



  「「「はぁー…」」」



いつもならば、こんな会話が切り口になってなにやら始まるのも、今日はそんな空気にはならない。

綺麗にハモったため息とは反対に、三者三様といった様子でそれぞれどこかへ視線を移す。

待機所はただ、がいないというだけで他は何も変わらないのに、3人にはまるで火を消した蝋燭のように
溶けていた蝋がぴたりと固まり、温かさをも奪ってしまった様子であった。




は今日、任務なんだよね?確か。」

「んだろうな。待機じゃねぇつーことはなんか任務なんだろうよ。」

「今日は火影様の命で書類の整理してますよ。書庫で1人。」


の今日の任務を唯一知っていたゲンマに、カカシとアスマの視線が向けられるがそれ以上の言葉はなく。
ふわぁ、とした空気が流れていった。




「大の男3人でこんなにまったりしてるのもなんだな。」

アスマが苦笑いを浮かべながらもう灰皿に収まりきらないほど吸殻に、半ば無理矢理といったように銜えていた煙草を押し付ける。
“あーもうこんなに吸ったのか”、とその灰皿の姿に一瞬思いはしたが、なんとか火が消えた煙草をまたその中へ入れ、
ポケットの中から新しい煙草を取り出した。

「だからってここにアンコや紅がいても何にも変わりないでしょうよ?」

顔に乗せていたイチャパラを右手で取り、ニヤリと口端を持ち上げた顔をしてカカシが口を開く。
“まあな”、とアスマはその言葉に同じような顔を浮かべた。

がいないっつーだけでこうなる俺たちってどうなんですかね?」

「まあそれだけが魅力的ってことデショ?」

ゲンマの言葉を濁したような問いかけに、ストレートな言葉でカカシが答える。
そのときにふと合った視線に、少し間を置いてから互いの顔を見て、情けないような顔で笑い合った。





どうやら今日は、一時休戦。
同じ者を惚れた同士、肩を並べる日のようである。





「なんかさ、ちゃんがいると見てたい気がする。
 こう、自分の視界に入れておきたいような。」

「あーわかりますよ、それ。
 あいつの笑顔と声はあったかいですからね。」

「あったかいよな、って。いるだけでそれだけで十分つーか。」


ゆったりと、よく考えれば恥ずかしいことをぽつりぽつりと会話していく。
最後のアスマの言葉に、“そうだよな”という顔をそれぞれが浮かべた。


は他の人たちにも人気があるみたいですからね。」

「あーこの間、中忍の男2人に食事にでもって誘われてたみたいだったからオレが首突っ込んどいたよ。
 なんだか、全然わかってないみたいでさ。たぶんオレいなかったら一緒に行ってただろうな。」

カカシの話に、ゲンマとアスマはその様子を想像してすぐに苦笑いを浮かべた。
“まあらしいんだけどね”、とカカシも苦笑いを浮かべながら付け加えた。

「男だけじゃねぇぜ?昨日はアカデミーで生徒に捕まってた。
 特別講師であまりにも人気あるからこれからは定期的に授業やるらしい。」

「子どもからもですか?らしいっちゃらしいですけど。
 誕生日の紅やアンコのこともありますし、今日の任務も火影様直々の指名ですし…」

「老若男女に人気ってことか。」

「まあそうですけど……今の話の流れからだと火影様を老女の代表にしてるみたいですよ?」

ゲンマがくすりと笑いながらカカシに指摘する。
“それはちょっとマズイね”、とカカシは軽く笑みを浮かべた。

は誰に対しても誠実だからな。それがいいんだろ。」

アスマがふーっと煙草の煙を吹きながら、まるで噛み締めるように言葉にする。
その煙の行方を3人ともが目で追う。
煙は真っ直ぐ天井へと昇り、姿を消していった。



「まあね。それが魅力であって、問題でもあるけど。」

そう視線はまだ天井のままにカカシが呟けば、ゲンマとアスマの視線も天井のまま、その言葉の意味を受け止めていた。




「あの、この中で視力が良くて、手先が器用な方いませんか?」



カカシとゲンマ、アスマがカカシの言葉にぼんやりと考えていると、そう声が掛けられた。

声の主を確かめるようにその元へと視線を向ければ、そこにはぽつんと、伏し目がちに立っているがいた。



「…!?」

カカシの発した声は驚きのあまりに裏返った。
それでも誰からの突っ込みがないのは、アスマとゲンマはカカシと同じように、もしくはそれ以上に驚いていて、
はいつものような笑顔が顔にないからだろう。。



―さっきの話は聞かれたのか!?


―いや気配なんて感じませんでしたよ?


―でもの表情は、あれはどこか気まずいっていうふうにも取れるし…?



ちらちらとアイコンタクトだけで会話をして、確認する。
その間も、はただどこか沈んだような表情を浮かべている。



―おい、ゲンマ、お前なんか聞け。


―はっ?なんでオレなんですか?


―お前なら器用に、自然な流れで聞けるだろ?オレはそういうのは無理だ


―アスマさん、それ酷いですよ!器用だったらカカシさんだって…


―オレも今回はパス。こういう雰囲気は一番ゲンマが合ってるって


最後にカカシがゲンマに“ねっ?”というように目を弓なりに曲げて視線を送った。
“なんでオレ…”とゲンマもその視線に返そうとしたが、ちらりと視界に入ったの表情にそれを止めた。



「なんかあったのか?」


さすがアスマとカカシが思った通りに、ゲンマが何気なくに問う。
“よくやった”、そんな視線が2人から送られていることをゲンマはわかっていたが、それよりもの浮かない表情に
ただ釘付けになっていた。

「なんでもないんですけど…ちょっと頼みたいことがありまして…」

いつものようにふわりと微笑んでみせようとするの顔はどこか痛々しく、これにはゲンマだけではなくカカシやアスマの視線も
自然とに向けられた。
その3人の様子に、“本当なんでもないですよ?”とが付け加えてみてもそれは逆効果であった。



どうしたんですかね?任務でも頼まれたんですかね?


―かもしんない。視力と器用ね。んーオレは器用だけど視力はちょっと…


―オレは器用じゃねぇぞ?


―オレはどっちも引っ掛かりませんけど…っていうことはオレですか?


また視線だけで会話をしていく。
先ほどと同じように最後にはゲンマにカカシとアスマの視線が向けられていた。



「この3人の中ならオレがその条件に合うと思うが…?」

ゲンマがそうに申し出れば、はふっとゲンマの目を見つめた。

「ゲンマさん、お願いできますか?」

「お、おう。なんだっつーんだ?」

ばっちり目を合わせたこの状態で、にたとえできないことを頼まれたとしても引き受けてしまうだろうとゲンマはふと思った。

「これで…」

がさごそと、腰に付いているポーチの中からゲンマに何かを差し出す。
それをゲンマが受け取るのを確認すると、今度は自分の右手を差し出した。

「人差し指の棘、抜いてもらえますか?」

軽く潤んだ瞳のがゲンマを見上げるようにして請う。
やっとわかったの言葉の意味に、ゲンマは改めて自分の手に渡されたピンセットと針を確認した。

「棘刺さったのか!?」

安心と驚きのあまりゲンマの声がそう声に出せば、こくりとは頷く。
ゲンマの後ろのソファに座ったままの状態であるアスマとカカシは先ほどまでの2人のやりとりは、
ちょうどゲンマの背中が死角になっていてわからなかったが、ゲンマの言葉で理解できた。

「どうしてゲンマさん、笑ってるんですか?痛いんですよ?」

どうやら緊張が解けたゲンマの顔には笑みが浮かんでいたらしい。
それを見たはフン、と怒ったような顔をした。

「あー悪い。ちょっと勘違いしてな。」

「書庫の棚が悪いんですよ。まさか棘が出てるなんて思わないじゃないですか。
 しかも利き手に刺さったから取りたくても取れなくて。我慢しようと思うほど気になって。」

まるで言い訳でもするようにが一気に話す。
いつもは見せないその姿にゲンマは可愛らしさを感じて少し頬が緩んだ。

「確かにあそこの棚は古いからな。おい、向こう行くぞ。」

差し出されていたの右手を取って、ゲンマが陽が差し込んでいる窓際へと移動する。
は引っ張られるようにして、とてとてと音を立ててゲンマにつれられて行った。














それからの2人は、傍から見れば手を取り合う恋人のようで。

窓から差し込む太陽の光に、温かく包まれているのがまたそれを綺麗に装飾している。



「痛くねぇか?」

「んっ、大丈夫ですっ…」

「ちょっとだけ我慢してろよ?」

「はい。優しく…お願いしますね?」

「おう。」



その会話も事情を知らない人が聞いていれば、甘い会話のようにさえ感じられる。














「…ねぇ、アスマ?」

「なんだ?」

「結局またゲンマにおいしいとこ、持ってかれてるよね?」

「お前もそう思うか?」


カカシとアスマはただ自分で手放したチャンスを、自分たちがアシストして掴んだゲンマの姿をただ眺めているしか出来なかった。





「これは目を逸らしちゃいけねぇ。しっかり焼け付けとくぞ。」

「オレも。」


眉間にきりきりと皺を寄せながら男2人が眺めていることを知ってか知らずか、
綺麗に取れた棘に嬉しそうな笑みを浮かべると、その笑顔をただ1人向けられているゲンマが綺麗に微笑んでいた。

































アトガキ
今回の話は“男の友情”と“アイコンタクト”がメインの話になってしまいました。
きっとアイコンタクト得意だと思います、忍って。そういう状況に置かれますし。
同じ人を愛してるのなら普通の仲間以上に心は通じ合うんじゃないですかね。(笑)
…この話、夢小説じゃなような…すいません。




2006.5.25 up



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