それからペースよく、その酒を飲みながら談笑していると、しばらくして紅がはっとした表情を浮かべての肩を叩いた。
「ちょっと、?大丈夫?顔赤くして…それになんだかボーっとしてない?」
「…え?そんなことないれすよ?」
ゆっくりと紅の方へと向いたはとろーん、とした目で紅を捉える。
そして、ふっとそのまま微笑んだ。
「あ、完全に酔ってない?」
「おー結構これ、度数高いからな。」
カカシが面白そう、と言ったようにの顔を見つめる。
アスマはだいぶ軽くなった酒瓶を手に取りながらそのラベルを見ている。
―酔ったもまた可愛いな
本当ならばそう言ってしまいたいが酔っているにそんなことを言ってもいつも以上に意味はない。
カカシとアスマはただ頬を緩めて、を見ていると、はふにゃあ、とやわらかい表情で微笑みながら、
“酔ってないれすって”、と繰り返すばかりであった。
―完全に酔ってるって
呂律も回らないその様子に、心の中で3人がそう思ったが、そんな心を知るはずもないはまた酒へと手を伸ばす。
すかさず紅がグラスを、アスマが酒瓶を手に取り、から遠ざけた。
取り上げ状態になったは、ふにゃふにゃとしていた表情を、眉間に皺を寄せ、悲しそうな顔を浮かべながらそれを見つめる。
「もっと飲めましよ?」
じわじわ、と目に涙を溜めてがそう請う。
その様子がたまらないくらいに可愛らしくて、紅とアスマは思わず渡してしまいそうになる気持ちをぐっと抑えた。
「カカシしゃん、どうにかしてくらさいよー。」
「…いや、ちょっとそれだけはしてあげられないかも…ごめんね?」
いつでもの願いなら叶えたいと思うし、今の涙が溢れんばかりのの願いならば尚更に聞いてあげたいとも思うが、
チラリ、と視界に入ってくるアスマと紅の視線にそれはできないことを悟って、カカシはそう言うしかなく。
そんな3人の行動には目を潤ませて、不満そうな顔を浮かべる。
いつもと全く様子の違うに驚きながらも、それもまた愛らしくて、しかしながら今微笑んでしまえば負けてしまいそうな今の状況に、
ただ、ただ3人は苦笑いを浮かべた。
「…?ちょっとトイレで顔でも洗って醒ましましょう?」
どうにか少しでもの酔いを醒まさなければいけない状況に紅がに声を掛ける。
そして自分の持っていたのグラスをカカシに渡すと、の背中を抱いて紅が立たせる。
相変わらずふにゃふにゃとしているからの返事を待たずして、その背中を押すようにしてトイレへと連れて行った。
「って酔うとああなるんだね。」
「みたいだな。」
「ま、あんなも可愛いけど。」
「ああ。」
テーブルに2人残されたカカシとアスマが、遠ざかっていくと紅の姿を見てそう呟く。
それが見えなくなると、それぞれのグラスに酒を注ぎ、小さく乾杯すると口に運んだ。
ふいに目を見合わせると互いに緩んでいる顔が目に入ってくる。
―同じ気持ちなんだな
自分が今、を可愛くて愛しいと思うことを相手も心に抱いていることが伝わってくる。
見透かした気持ちと見透かされた気持ちになって、ただただ笑いあいながらも酒を進めるしかなかった。
「…何、2人で楽しそうにやってるんですか?」
カカシの目の前にドカッと腰を下ろす音がするのと同時に声が掛かる。
2人の視線をその人物に向ければ、楊枝をゆらゆらと揺らしながら不思議そうに視線を投げかけているゲンマの姿があった。
「…あ、任務、終わったの?」
「ええ。明らかに今、嫌そうな顔してますね。」
「そんなことないよ?皆で楽しく飲もうよ。」
「そうだ。ほらゲンマも飲め。」
アスマがそう言いながらゲンマにグラスを渡すと、そこへ酒を注ぐ。
ゲンマがそれを口へ運ぼうとすれば、カカシが微笑みながら“乾杯”と言ってグラスを傾けた。
「…で、はどうしたんです?」
グラスのお酒を飲み干したゲンマがそう口を開く。
―やっぱり気になるのはそこか
そんな表情をカカシとアスマが浮かべてゲンマを見れば、ゲンマが不機嫌そうに眉間に皺を寄せるのがわかった。
「もちろん、いる…
「あ、ゲンマしゃんだ!」
カカシが言い終わる前に、トタットタッ、という不規則な足音とその声が聞こえてくる。
その姿が見えているカカシとアスマはどこか苦笑い混じりながらもニコニコと微笑んでいるが、
背を向けている形になっているゲンマは何が起こっているのかわからず、眉間に皺を寄せる。
何なのかを確かめるために振り返ろうとすると、ドン、と背中に衝撃が走った。
「「あ。」」
その光景に思わずカカシとアスマはあんぐりと口を開けた。
ゲンマは何が起こったかわからずに、ゆっくりと自分の背中の方を振り返るしかなかった。
「…!」
「…ん、ゲンマしゃん…」
ゲンマの声が思わずひっくり返ってることも気にせず、はゲンマの背中に頬寄せ、胸の方へと腕を回している。
背中越しのためにはっきりとその表情が見えないものの、その行動からして心地よいのだろう。
抱きついているも、抱きつかれたゲンマも、それを見ているカカシとアスマもどうすることもできない状態。
ゲンマに至っては、銜えていた楊枝も、口が開いたままのせいで下に落ちてしまっていた。
「…やっぱり…」
の後を追って戻ってきた紅がその光景を見て、ただ苦笑いを浮かべる。
そしての背中をポンポンと叩いてみるが、はゲンマの背中から離れようとせずに、むしろ回した腕に力をぐっと入れた。
「な、なんなの、これ…」
開きっぱなしだった口をなんとか閉じてカカシが言葉を発する。
アスマも自分を落ち着かせるために新しいタバコを取り出して銜えるが、手が震えてしまっているせいか火がつかず。
ゲンマはさらに身体を強張らせていた。
「トイレに行ってからそんな調子だったのよ。ずっと抱きついて離れなくて。それで酔いを醒ますために冷たいおしぼりを貰おうと思って
トイレから出たところで急に離れたかと思ったら走って行っちゃって…。」
「そ、そうか…」
“仕方ない子ね”、と言いながらふふっと紅は笑っているが、それ以外の3人は相変わらず笑える状況ではなく。
わなわな、とカカシは右手をゲンマの方に差し出しているがどうもできず、アスマもタバコに火がつかないでいる。
本当ならば1番おいしい思いをしているはずのゲンマも、あまりにも突然のことでその喜びには浸れないようだ。
そんな3人のどうしようもない様子に、紅は仕方ない、といった表情を浮かべてもう1度の背中を軽く叩いてみる。
が、それには、体をうずうずと動かすだけで離れそうにもない。
紅はそのの顔を見て優しく微笑んだ。
「今日はもうこれで解散よ。で、ゲンマはそのまま私の家に来て。」
「は?」
「は限界みたいよ。ほら、もう寝てるから。」
自分の荷物と、の荷物を手際よく紅が微笑みながらそう口にする。
その言葉に、アスマとカカシがゲンマの背中を見れば、気持ちよさそうに寝ているがいた。
「…寝てるもまた可愛いね。」
「…おう。」
スースー、と規則正しく寝息まで立てて眠るはどこか微笑んでいるようにも見える。
ゲンマの背中で寝ている、という状況はあまりにも面白くないがそれでも思わず言葉にしてしまうほど可愛かった。
「がまさか抱きつき魔だったなんてな。」
店を出たところで、アスマがタバコを吹かしながらポツリとそう呟く。
ゲンマによってしっかりおんぶされているはもう深い眠りの世界へ旅立った様子で、街の騒がしさでは起きないようであった。
改めてカカシがの顔を覗き込むとため息をつく。
それに気が付いたゲンマが何も言わず、カカシの顔を見ていた。
「…酔ったをオレが送ってくつもりだったのにな。」
「何言ってるんですか?」
「いや、まさかが酔うなんて思ってなかったけどね。冗談のつもりだったけど本当に酔ってゲンマの背中で寝るなんてさ。」
不満そうにゲンマの顔を見つめながらカカシがそう言えば、ゲンマは“不可抗力ですよ?”と言うことしかできず。
じっとゲンマの顔を見つめていたカカシも、一つ息をつくと、今度は仕方なさそうに微笑んだ。
「今日はその可愛いの寝顔が見れただけで満足しておくよ。」
“おやすみ”、そう言うとカカシは体を返し、夜道を歩き始めた。
それに続いて、アスマも“じゃあな”、と言うと歩き始めた。
「じゃあ、私たちも帰るわよ。」
しばらくカカシとアスマの背中を見送っていた紅とゲンマだったが、その紅の一言で歩き出した。
「ちょっとー、なんで昨日飲み会したのよー!がちゃんと伝えたでしょ!?」
翌日、どこからか結局飲んでいたことを知ったアンコがその怒りに任せて声を上げている。
それに苦笑いながら、“また飲めばいいじゃない”と紅が宥めるが納まるはずもなく。
怒ったとばかりに張り上げる声に、頭を抱える者が2人…。
「…ね、アンコもうちょっと声抑えて…頭に響いて…」
「あーだめだ、頭痛っ。」
「そりゃ、あなたたち2人はずっと飲んでたんだから。…にしてもはすごいわねー。
ああなったのに全く残ってないみたいよ?」
そう言う紅の先には、アカデミーの校庭でキャッキャッと甲高い声を上げる子ども達と戯れているの姿があった。
アトガキ
本当、すみません…!
ユナさまより頂いた、お題『抱きつき魔』でのお話なのですが…抱きつき魔になってませんよね…。
本当申し訳ないです。
もうちょっと弾けるつもりだったのですが、どうにもできませんでした。
このくらいで落ち着いてしまいました。
ユナさま、お題リクエストありがとうございました!
2006.8.10 up
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