「…?知り合いいねぇんだろ?」



握手を交わした後に、そう不知火さんが聞いてきた。
私は事情を説明した中で、そのことも話していたので、“はい”、そう答えた。


「オレが紹介してやるからついて来い。」


ドアを開けながら、背中越しに不知火さんがそう言う。


「そんな悪いですから!大丈夫ですっ!」

「…一人で挨拶なんて出来んのか?
 ほら、さっさと中入れ。」

「本当すいません…」


私は小さく不知火さんに謝りながら、中に入った。





中に入って、不知火さんは次々と上忍や特別上忍の方を紹介してくれた。

―とてもじゃないけど覚えならんないなぁ…

不知火さんがせっかく紹介してくれているのにそんなことを思ってしまう。
人を覚えるのが少し苦手なだけに、いきなりここまでの大人数、しかも忍装束というだいたい同じ服装だと、
見分けが付かなくなってしまう。

“どうしよう”、そう思いながら1人百面相をしていると、それに気付いたのか不知火さんが立ち止まって振り返った。


「一気に覚えようと思わなくて大丈夫だぜ。そんな無理はすんな。
 今はとにかく笑顔で挨拶しておけ。仏頂面なんてすんなよ?」


そう言いながらニッコリ微笑む不知火さんに、焦っていた気持ちが落ち着いていく。

―本当心強いな、不知火さんって…
 その上、あんな整った顔で…

ふと見せる笑顔ももちろん綺麗だが、挨拶をしているときに見える横顔もまた綺麗で。
いろんな人に挨拶している間も、その顔を自分がボーっと見てしまっている自分に何度もはっとしていた。
顔だけじゃない。
前を歩く不知火さんの背中はすっごくがっちりしてて“男”を感じさせる。
内面的にも、外面的にも不知火さんの株は上がりっぱなしだった。



そんな中で紹介された“みたらしアンコ”さんは特別上忍で、とても明るくて、同じ女性として可愛いと思った。
そしてそのアンコさんと一緒にいた上忍の“夕日紅”さんは綺麗ななお姉さまという感じで一瞬にして憧れた。
いきなりアンコさんに、お団子を突きつけられたときにはさすがに驚いたが、どちらの方にも“女同士3人で飲みに行こう!”とか、
“男には気をつけなさいよ”、“なにかあったらすぐに言いなさい”などと声を掛けてくれたりもした。
不知火さんは“お節介”だとか、“うるせぇ”なんて言っていたが、私はその言葉が心強くて、本当に嬉しかった。
不知火さんに対して、“今日も楊枝銜えて!止めたほうがいいわよ?”と嫌味ったらしく言うアンコさんと、
“うっせな、お前も団子ばっか食ってんじゃねぇ”と言い返している不知火さんのやりとりを見ていて、“私も仲間に入れたらなぁ”、
と、羨ましく思えた。








「まあ、ざっとこのくらい挨拶しとけばいいだろ。」




待機所の中を一回りしてから不知火さんがそう言った。


「ありがとうございました!」


本当にお世話になっちゃったな、そう思いながら、不知火さんに頭を下げる。
こんなぐらいじゃ到底足りない迷惑をかけてしまっている、と痛感していた。

“もし1人だったら…”、そんなことを考えるのが恐ろしい。
きっと何もできずに、いや、ここに入ることすらできなかっただろう、と思う。


「気にすんな。」


楊枝を上下させながらそう言う不知火さんはまた格好良かった。


「不知火さんは今日、待機なんですか?」


もし待機じゃなくて私の面倒を見てくれてたとしたら…、それはずっと気になってたこと。
気になってはいたが、タイミングがなくてずっと聞けずにいた。


「あぁ。今日は待機だ。」

「よかったです。不知火さん、任務があったらどうしようって思ってて…。」

「…なぁ、その“不知火さん”って呼び方止めてくれねぇか?」

「えっ?」

「お前とオレは同じ特別上忍だ。苗字じゃ余所余所しいだろ?
 だから“ゲンマ”でいい。」

「確かにそうですねぇ…でも呼び捨てはできませんよ!先輩だし…
 その、“ゲンマさん”でいいですか?」

「“不知火さん”よりはその方がいいな。」

「わかりました、ゲンマさん。」

「あぁ。」



そんな話を待機所のソファに座りながらしていると、銀髪で片目を隠した男性と、髭を生やし、タバコを銜えた男性がやってきた。


「ちょっとゲンマー、酷いんじゃないの?ねぇ?」


銀髪の男性がゲンマの前に腰を下ろしながら言った。
ねぇ?と話を振られた大柄の男性も“あぁ”と言いながらの前に腰を下ろす。


「何がですか?」


そんな二人にゲンマが受け答えする。
はまったくこの銀髪の人や大柄の人が言わんとすることがわからなかった。
そして前に座った二人を見ながら胸の奥で何かがつかえているような感じがしていた。


「何ってなんでこっちにはこないの?」

「こっちって?」

「いつもの奥に座ってたでしょ?オレたち。」

「そうだったんですか?すみません、気づかなくて。」

「ふーん、気が付かなかったんだ?一緒にいるのに?
 そのコを紹介したくなかったわけじゃなくて?」

「それもあったかもしれませんね。」


ゲンマが銀髪の男性にあっさり言い放った。

そんなゲンマと銀髪の男性のやりとりは全くの耳には入っていなかった。

―あれ、なんだっけ?

胸の奥にある何か、思い出し忘れてる感じ。
それを考えることにの全神経は集中していた。


「…なるほどねぇ。まあいいんじゃない?
 ゲンマくんがそういう態度なら。」

「そうだな。これはオレたちの戦いってわけだしな…」

「そうですよ。どうせライバルになるんですからね。」


3人がそれとなく睨み合い、張り詰めた空気が流れる。
この3人の話題の中心は、そうである。
ゲンマはに出会ったときから、この2人には極力関わらないように仕向けようとした。
もちろん、鼻の利く銀髪上忍や、勘のいい煙草上忍にはすぐに気づかれるだろう、とわかってはいたのだが―
それでも少しでも阻止したいと思うのが、きっと惚れた弱みというものなのだろう。



「あっ!?」



先ほどまでの3人の空気を壊すようにが声を上げた。
3人の視線が一気にに集まる。
は思わず自分の上げた声が待機所に響き渡り、人の視線が自分に集まったことで耳を赤くしていた。


「どうした?」


ゲンマがすかさず声を掛ける。
は“すみません”と謝りながら、目の前の二人をじっと見ていた。


「あ、あのカカシさんとアスマさんですよね?」


やっと思い出した、そんな感じでが言う。
が言わんとすることが見えない3人は明らかにキョトン顔だった。


「そうだけど?」

「あぁ、やっぱり!
 …あの、1年くらい前に東の森で助けてもらったものです。」

覚えてますか?、そう言われてカカシとアスマが1年前のこと思い出す。

「1年前に東の森…?」

「カカシとオレで…?………んあ?お前、怪我してたヤツか?」


アスマは煙草を右手に持ち、思い出したように言う。
カカシはその言葉に、“あー…”と思い出したように付け足した。




そう今から約1年前。
休日に修行をするため、東の森をは訪れた。
苦手克服だったチャクラコントロールのために、また極限状態対策のために、
チャクラがなくなる寸前の状態では木登りをしていた。
森の中の一番大きな木。
それの中間あたりまで登ったときだったであろうか。
ふいに枝に作られていた巣が目に入った。
そして次の瞬間、そこから雛が落ちるのが見えた。
―あ、危ない!!!!
あまりにもいきなりのことで、咄嗟にはその雛に手を伸ばしていた。
間に合ってしっかりキャッチしたものの、そのまま落下。
腰を強打したは、動こうとしても激痛が全身に入り、力を入れられず、意識も次第に遠のいていった。
次に意識が戻ったときは、真っ白な天井が広がっていて。
そう、は森ではなく、病院のベットで寝ているところだった。
東の森から、病院へ来たときまでのことは看護師の方から聞いた。
名前を聞いても誰だかわからなかったが、今そのとき聞いた、銀髪の片目の上忍と大柄で髭面、煙草の上忍という2人の特徴で
やっと名前と顔、人が一致したのだ。


「その節は本当にありがとうございました!
 カカシさんとアスマさんが来てくれなかったら、今の私なんていなかったと思いますから。」


両手をぐっと握り締めて、少し早口に話すの姿から、言っていることがお世辞なんかではなく、本音であることがよく伝わってくる。
ゲンマはそんな様子を見て、少し眉間に皺を寄せた。

―面白くねぇなぁ

カカシやアスマよりも先にを見つけたのは自分だと思っていたのに。
これではすっかり先を越されていた上、の中ではもう“命の恩人”になっていた。

「任務終わりじゃなくてもたぶんオレはちゃんを助けてたな。」

―偶然じゃなくて必然なんだ

そんな意味を込めて、カカシは見えている右目を弓なりに曲げながらそう言った。

―おう、いきなり攻撃か?

アスマは少し口の端を上げ、鼻で笑った。

―チッ

軽く舌打ちをしながら、ゲンマはますます眉間に皺を寄せた。


「えっ?どういうことですか?」


カカシの笑顔に、も笑顔で答える。
その表情は、言葉通り、本当にカカシの言葉の意味をわかってないらしい。
この行動からわかったこと。
は鈍感、もしくは恋愛には疎いということである。


「んまあ、そういうこと。」


そう微笑んで答えるカカシだが、心の中では先制攻撃になるはずだった言葉が
すっかりかわされてしまった、いや気付いてもらうことすらできなかったことに軽く落ち込んだ一方で、

―それも面白いんじゃない?

と、に対する恋の炎をメラメラ燃やし始めてもいた。
の言葉にアスマとゲンマはカカシを心の中で笑いながらも、何もわからず微笑むを見て、こちらも心を燃やしていた。





そして1人、
今日1日で格好いい先輩を作ることもでき、なんとか特別上忍デビューをすることもでき、命の恩人に再会することもできた、

―なんていい日なんだろ

そう心の中で噛み締めていた。































アトガキ
ここまでが一応、始まりの話です。
でも次も3人とも出す予定。
“日常”、それがテーマです。

2006.3.12 up




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