「はぁ…」


待機所を開け、オレはまずため息をついた。







待機所に入ってまず、オレに飛び込んできた様子。
これはもう、ハーレム状態になっていると言っていいだろう。

の右側には、団子を勧めるアンコ。
そして左側には、これ以上ないくらい弓なりに目を曲げるカカシ。
向かいには、アスマと紅が座り、顔こそは見えないが、
その後ろ姿から微笑んでいる姿が想像できる。


別にその空間に、自分の入る隙間がないとかそういうことでため息が出るほどオレは子どもでもない。
ただそう、オレが思うのは―


が特別上忍になってからのこの数日間。
毎日がこんな状態である。
それまでの待機所は、それぞれが思い思いの時間を過ごす場であって、
よく言えばまったりとした、悪く言えばダラダラした時間が流れていた。

それが今じゃこんな状態。
たった一人、が増えただけなのに、毎日待機所には笑い声が響く。
心なしか、会話に参加していない他の忍までいきいきしているようにすら感じる。
それが決して嫌なわけじゃない。
むしろがいてくれることはオレも嬉しい、正直。


でもなんだかな、こう胸がモヤモヤして…腹立たしい。
が楽しいならそれでいいと思う反面で、妙な距離感が生まれたような気がして…。



楊枝をいつも以上に揺らしながら、深呼吸より少し大きめに息を吸い込んで、
またため息が出そうになったときに、
アンコに勧められた団子を頬張っていたがゲンマに気付いた。

「あ、ゲンマさんおはようございます。」

クリクリした目をこっちに向けて、にっこり微笑みながらそう言う
今日もやっぱりいつもので。
ゲンマはさっきのため息なんか忘れて、“よう”、そう言いながら手を挙げた。








ゲンマが集団に加わり、アスマの隣のソファに腰を下ろすと、
“待っていた”、そう言わんばかりにカカシが口を開いた。

「ゲンマとちゃんってどういう関係なの?」

いきなりの質問にさっきまでの穏やかなムードがピタッと止まる。
“はぁ?”、カカシ以外のメンバーがそんな言葉が漏れそうな顔をしてカカシを見つめた。
その空気を察して、カカシがまた口を開いた。

「ほら、ゲンマがちゃんを紹介してたデショ?
 いつからの知り合いなのかなぁ〜って思ったわけ。」

「あ〜、確かに。
 待機所に連れてきて紹介するくらいなんだから前から知ってたの?」

もしかして…、ニヤけた顔をしながらアンコがカカシに同意する。
言葉には出さないが、紅やアスマも同じことを考えたようであった。


ゲンマとは、カカシの言葉に“そういうことか”とポカンと聞いていたが、
アンコの言う状況に至った理由を思い出していた。

―ウロウロしてたらゲンマさんに声掛けられて、奇声を上げて、優しい言葉に甘えて…

―声を掛けたら、可愛くて構いたくなって…

2人もドキッとする。
2人の関係…別にやましい事があるわけではないが、少々語りにくい部分がある。
固まってしまった2人を見て、アスマが口を開いた。

「その様子じゃ、なんかあるみてぇに思えるんだがなぁ?」

薄っすら笑みを浮かべながら、紫煙を吐き出してアスマが言う。

もちろん、カカシもアスマも知っている。
がやってきたときの様子からゲンマとに深い関係があるわけではないことを。
ただ今知りたいことは、2人はどのくらいの関係なのか?
あのときなぜ一緒にいたのか?
単純にを自分より知っているのか、それだけのことなのである。


4人の視線を感じて、ゲンマが楊枝を上下させてからの方を窺う。
もなんだか考えている様子で、質問には答えそうになかった。
とりあえずここは自分の口から事実だけを伝えよう、ゲンマはそう思った。

「あの日、たまたま待機所のドアの前で会って、
 知り合いがいないっていうから紹介しただけですよ。
 そこで知り合ったってだけです。」

ただ淡々とゲンマが話す。
それを聞いたアンコと紅は、予想したものと違ったようで、“おもしろくない”という顔をした。
はゲンマが話し出したときには、“何を言うんだ”、というびっくりした様子だったが、
その内容に安堵の表情を浮かべた。


「それじゃあ、別にそんなに長い付き合いじゃないんだ?」

話を聞き終わって、カカシがほっとしたような笑みを浮かべながら言った。

「そうですよ。」

ゲンマはその笑みが腹立たしくて仕方なかったが、これが事実。
と自分との間にはそれ以上の何もないことをただ認めるしかない。

「ふーん。」

「なんですか?」

「なんでもなーい。」

飄々と、はっきり言わないカカシにゲンマは苛立った。
口に銜えた楊枝も必要以上に上下しているのが自分でもわかる。
目を合わせているカカシからも、隣にいるアスマからも、
嘲笑うかのような視線を感じたが、今はただ眉間に皺を寄せ耐えるしかなかった。








「ちょっと、これ全部食べたの!?」

「えぇ!?あ、ごめんなさい!!」



アンコの悲鳴に似た叫び声と、驚きながらも謝るの声が突然上がる。
その声は待機所に響き渡り、一緒にはいたものの、事情を知らないカカシ・ゲンマ・アスマの視線、
それ以外にも待機所にいた忍の視線が一斉に集まった。
紅はその原因を知っていたようで、ただ苦笑いをしていた。

大声を上げた当の本人たちは、
“えー、本当?”と驚いた様子の者と、“すいません”と謝る者にわかれて、
周りの視線に気付くことなくやりとりを続けている。

その様子を見ていても、何が起こったのかまったくわからない男3人は
ただ呆然とするばかりであった。


「なんかあったのか、紅?」


見ているだけでは、らちが明かないと悟ったアスマは、事情を知っている様子の紅に問う。
紅は苦笑いが止まらない、そんな感じで口を開く。

が置いてあった団子、全部食べちゃったのよ。
 そのパック山盛りにあったでしょ?」

紅が呆れた、そんな様子で空になっているパックを指差す。
確かに、アンコとの間には、みたらしだんごのたれのみが残ったパックが置かれていた。


「まあ謝らなくていいわ。だから許してあげる。
 ってこういうの好きだったの?」

「ありがとうございます。
 あ〜、好きです。かなり…」

「そうだったの!!
 気が合うわね、。そういうの、今までいなくて困ってたのよー。」

あ、あそこのケーキバイキング知ってる?おいしいのよー。
そう、今度一緒に行きましょ!あの店、食べつくすわよー!!
あとね、今度新しい和菓子屋ができて、オープンセールが……

が甘いもの好きだということがわかって、すっかりテンションの上がったアンコ。
今まで、誰もアンコについていけるほどの甘いもの好きがいなかったため、
誰にも語られることのなかった、木の葉隠れの甘味処知識を一気に語られだした。
カカシ・ゲンマ・アスマ・紅は頭を抱えるしかなかったが、
は目を輝かせ、“そうなんですか!?”、“行きたいです!”、“ありがとうございます”などと
アンコの話に拍車を掛けるとも知らずに、アンコへの尊敬の念を語っていた。



「あんなにちゃんが甘いもの好きだったとはね〜…」

その様子を眺めながら、カカシがため息にも似た声を発する。

「ありゃすげぇな…」

アスマも新しい煙草に火をつけながらカカシに同意、といった様子である。

「あれにはついていけない…」

ゲンマがつぶやくように、楊枝をカチンと上向きに噛んで小さく言う。

すっかり3人はの意外な姿に、驚きを通り越して、呆れに近いといった様子である。
それを見ていた紅が、クスッと笑って口を開いた。

の好きな食べ物は甘い物なのよね?」

そう聞かれたは、相変わらずアンコの甘味処話を聞いていたところだったが、
紅の方に視線を移した。

「甘いもの、好きなんでしょ?」

「あっ、はい。そうなんですよ。」

「甘いものならなんでも?」

「そうですね。団子も好きですし、ケーキも好きです。
 アンコも生クリームもチョコレートもなんでもいけます。」

「そう。」

紅が綺麗な顔をして笑うので、も釣られるように微笑んだ。
その様子を男3人はただ、口を開けて見ているばかりだったが、
次の紅の言葉でその意味を知ることになった。

が好きなものを食べている姿。
 また可愛いんでしょうね。」

ふっとつぶやくように、尚且つ、さらっと紅の言った言葉。

(((そうだ!!)))

3人の頭の中には共通した行動が閃いていた。
ただ愛しいの笑顔を手に入れるために…



そんなことは露知らず、はひたすらアンコの木の葉隠れ甘味処情報に頷いているばかりだった。































アトガキ
3つ目。思わず方向性がわからなくなりそうですけど…
この話は4つ目の話に関連することになります。
次回はやっと逆ハーになる…と思います。

2006.3.20 up




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