「明日の予定は、アンコとカカシが待機、私とアスマが担当班の修行、ゲンマがと任務、ね?」
紅が確認するように言うと、周りの4人がこくり、と頷いた。
アンコによって知らさせた、明日がの誕生日という衝撃事実に1度は驚き、言葉を失い、
そしてその誕生日を巡って無意味な張り合いをしたが、紅によって“全員で祝う”ということが決まり、
今はただ、5人で頭を付きあわせてそのことについて考えている。
「なーんかどっかのお店を予約するより誰かの家でやった方が楽しそうじゃない?」
アンコが団子のなくなった串を、団子の入っていたケースへと戻しながらさりげなく言う。
そして空いた手に、今度はおしるこを取り、すすり始めた。
「何言ってるのよ?」
差し迫ったの誕生日を前に、そのことについて真剣に考える中、あまりにも自然体すぎるアンコの姿に
軽く眉を寄せながら紅がアンコへと視線を向ける。
アンコはその紅の“呆れている”という視線に気がつくと、持っていたおしるこをカツンとテーブルへ戻し、
少しきりっとした、真面目な顔を作ってから口を開いた。
「べ、別に私は冗談で言ってるんじゃないわよ?ほ、ほら、時間もないから、これからいい店の予約も取れないでしょ?
いつもの酒酒屋は誕生日を祝うのにはちょっと違うじゃない、ふ、雰囲気が!ね!…だから…よ?」
取って付けたような理由をアンコがブツブツ途切れ途切れに、必要以上に手を振って熱弁する。
ぐるっと見回せば、カカシとアスマ、ゲンマから、“それはないよ”という視線が送られている。
“言い訳しています”、自分でも話していてそうわかったが、どうやらそれは周りにも伝わったらしく、
アンコは額を冷たい汗が伝うのを感じた。
―これはよくない空気?
そっと紅の様子を窺えば、ただ自分の方をボーっと見つめていた。
それは先ほどの“呆れています”という視線よりも、“無関心”や“もういい”といったように感じるものであった。
「ってやっぱりダメよね?ま、まあ、なかったことに…」
「いいじゃない、アンコ。あなたにしてはいい考えよ。」
「へ?」
「いいわよ、それ。」
紅の予想外のリアクションにアンコは目を真ん丸にして、ぱちくりさせる。
紅はにっこり微笑んでいた。
「…本当にいいの?」
苦し紛れの言い訳をあっさりと認めた紅に、逆に不安になったアンコは小さな、弱々しい声で確かめてみる。
「いいに決まってるじゃない。
確かに今からじゃの誕生日を祝うようなところは予約できないだろうし、家の方がおもしろいじゃない。
アンコ、それ使わせてもらうわ。」
紅は相変わらず微笑んで、そうはっきりと答えた。
アンコは、“そ、そう?”と言いながら、アハハと乾いた笑い声を発しながら、内心ほっとしていた。
「でも家で6人がゆっくりできるのって言ったらアスマの家しかないわよね…」
「…!オレの家か?」
紅とアンコのやりとりを、ソファに凭れて紫煙を吐いていたアスマが身を起こして反応する。
その行動にしゅっと他の4人の視線が集まった。
「だってそうじゃない?独身寮も狭いし、一人暮らし用のアパートもそれと変わらないわよ?
一戸建てに悠々と暮らしてるアスマのところが適所よ。」
「まあ、確かにそうだな。」
「そうそう。」
「お前ら…。まあでもそれがもっともだな。」
紅の言葉に便乗して賛同する、ゲンマとカカシに何か言い返してやろうとも思ったが、確かに筋の通っているその話に
アスマも賛同するしかなかった。
「じゃあ決まりね。場所はアスマの家。アスマ、いいでしょ?」
「おう。わかった。」
アスマは新しい煙草を取り出し、それに火をつけた。
「家でするってことは料理も自分たちでしなきゃいけないってことだけど…
…もしかしてこの中で料理が出来るのって私だけじゃない?」
そう言って紅がぐるっと周りの顔ぶれを見ると、“そう”、という視線が返ってきた。
確かに男たちに何か作らせるのも気が引ける。
それにアンコに包丁を握らせればどうなるかわからない。
はぁ、と紅は軽くため息をついた。
「別にいいわ。
じゃあ私とアスマは担当班の修行が終わったら、一緒に買い物に行って家に向かうってことでいいかしら?」
「それが一番合理的だな。」
「じゃあそういうことにして。
でも料理はいいとして、ケーキまでは手が回らないわよ?」
「あーそれは任しといて!」
アンコが声高らかに、自信満々に言えば視線が一気に集まった。
「まさかこうなるとは思ってなかったけど、ケーキはもう行きつけのケーキ屋に頼んでおいたの。
と2人で食べようかと思ってね。」
「2人で食べるためのじゃ、小さいじゃねぇか?」
「大丈夫!10号だから!
それに足りないなら取りに行くついでにそこでカットケーキも買えばいいじゃない。」
「ちょっと!10号って本当!?」
「そうよ?」
紅の驚く声にアンコはあっさりと答える。
紅は、“信じられない”、という顔をしていた。
「…おい、10号ってどのくらいなんだよ?」
言葉を失っている紅に、アスマが声を掛ける。
紅がアスマの方へ顔を向ければ、カカシとゲンマも、アスマと同じような視線を紅に送っていた。
「直径30cmってことよ。6人なら6号、大きくても7号で十分よ。」
「「「「えっ!?」」」
「…それが正しいリアクションだわ。6人でも倍なのに、それをと2人で食べようとしてたんだから。
甘い物好きにも程があるわよ。」
ボソボソと紅が話すと、カカシとアスマ、ゲンマは先ほどの紅のように言葉を失った。
その根源となっているアンコを見れば、いつものように右手に団子、左手におしるこを持ち、
さも当たり前といったようにそれらを頬張っている。
その姿に、4人が“はぁー”をため息をつけば、その視線に気がついたアンコが、
“何よー、気分悪いじゃない!”とキーキーした声を上げた。
「ま、まあケーキについてはアンコに任せるわ。
カカシも待機なら一緒に行って、それでアスマの家に向かってよ。」
“カカシ、後は頼んだから”、アンコに聞こえないくらいの声で紅がそう付け加えると、
アスマとゲンマからも、“頼んだ”、という視線がカカシに送られる。
「わ、わかった。」
明らかに面倒な役回りに、カカシは苦笑いを浮かべながら了解したものの、先の事を考えるとため息が出てきた。
送られてくる3つの視線を感じてはいたが、それと目を合わせることを避けて、
カカシは今にも沈んでしまいそうな心を持ち上げるように天井を見上げた。
「ん?オレは何すりゃいいんだ?」
話の流れで、明日の他4人の担当が決まったところで、ゲンマが自分だけまだ何もないことに気がついて、
揺らしていた楊枝をぴたりと止めて口を開いた。
その言葉に、紅が口の端を少し上げる。
「おい、何だつーんだよ?」
その怪しげな紅の表情にゲンマは寒気を感じた。
紅はまた少し上げていた口の端をより上げて、クスクスと笑うと言葉を発した。
「別に怯えることはないわよ。明日の任務はどのくらいに終わりそう?」
「今度の諜報任務の下準備だから夕方には終わるんじゃねぇか?
遅くても夜には終わると思うが。」
「じゃあその後、をアスマの家に連れてくる、それだけのことよ。」
「なんだ、それだけか。」
先ほどの紅の表情は何だったんだ、とゲンマはふー、と胸を撫で下ろした。
その様子に紅はまた怪しい笑みを浮かべて、口を開く。
「ただ、変に怪しまれないようにね。
それと、の誕生日は知らないことにしておいて。」
「なんでそんなこと…?」
「どうせならビックリさせたいじゃない?
その方がこっちも楽しいし。」
「あーなるほどな。」
紅の笑みはそれを考えていたためだったとわかったゲンマが同じように笑みを浮かべる。
2人のやりとりを聞いていたカカシとアスマ、アンコもを驚かせる、が驚いたときのことを想像して、
ふっと笑みがこぼれ、明日が待ち遠しくて仕方なくなった。
「あー、プレゼントはどうするんの?」
アンコがはっとした表情でそう言う。
これで準備は万全、そんな流れになっていた空気がそこでぴたりと止まった。
誕生日の最大のイベントである“プレゼント”の存在を、どうやら全員がすっかり忘れていたらしい。
この笑えない状況に、それぞれがいい考えを探り始めた。
「…それぞれが何かを買ってくるっていうのは間に合わないかもしれねぇな。」
「そうねー。」
“うーん”、会話したゲンマとアンコがまた考え始める。
言葉にはしなくても、他の3人もその考えには同感しているようであった。
「それはほら、明日私とアスマで何か1つ、カカシとアンコで1つ、ゲンマはパンプキンパイとあと花とかでいいじゃない。」
紅が機転を利かせてそう提案する。
他4人は、“あー”、という同意の声を思わず漏らした。
「でも何買えばいいの?」
「私とアスマは何か生活に使える、実用的なものを選んで買うわ。
カカシとアンコは何か記念になりそうなものを買ってきて。」
「記念になりそうなものねぇ…。」
「そんな難しく考えなくていいわよ、カカシ。」
「大丈夫、大丈夫。任せといて!」
やけに明るいアンコの声に、またカカシはため息をついた。
―なんかオレ、一番損な役回りじゃない?
そんな視線を隣に座っているアスマに送れば、“頑張れ”、というようなふうに肩をポンと叩かれた。
「じゃあ明日は、それぞれ仕事が終わったら、今の担当をこなしてアスマの家に。
まあすべてはの誕生日のためなんだから。」
そう最後に紅が言葉にして、なんとか明日のの誕生日を迎えることになった。
アトガキ
すみません、前編・後編のはず3つになってしまいました…
しかも1周年記念日と誕生日のはずがそれを過ぎてしまいます。企画失敗ですね。
できるだけ早く後編をUPします!
次こそ本当に完結です。絶対に、です。
2006.4.28(my birthday!) up
ONE BY ONE 8*close