「おう、こんなに買ってどうすんだ?」
紅の隣で、大きな袋を6つ抱えたアスマが声を上げる。
「どうするって食べるに決まってるでしょ?
それにお酒好きが集まるんだから、荷物が多くなるに決まってるじゃない。」
紅自身も手に1つずつの袋を提げながら、アスマに答える。
明らかに持っている量の違いに、“ちっ”とアスマが舌打ちをすれば、紅の鋭い視線が飛んできた。
「ねえ、のプレゼント何がいいと思う?
アンコやカカシに実用的なものを選べる気がしなくて、昨日はあんなこと言ったけど
が必要としてるものなんて、意外と難しいわ。」
「そうだな。生活知らねぇとわかんねぇからな。
んあー…何がいいんだろうなー…オレじゃ女心もわからんぞ。」
「そうね。アスマに聞いた私が悪かったわ。
もう少し考えてみる。」
「…役に立たなくて悪かったな。」
アスマはポケットの中の煙草を太ももで確認して、それを出そうとしてみるが荷物が邪魔でどうもこうもできない。
思わず苛立って、また舌打ちが出そうになったが、ふと隣を歩きながら真剣に考えている紅の顔が視界に入ってきて、
その気持ちをぐっと飲み込んだ。
―紅のヤツもが好きなんだな
長い付き合いで紅のことはよく知っているつもりだったが、こんなに真剣に任務以外のことで考え込む紅の姿を見るのは
初めてかもしれない、とアスマはふと思った。
確かに忍として仲間を思いやる紅ではあるが、どこかさっぱりした印象も併せ持つ。
それが昨日知ったばかりのの誕生日をここまで悩んで、任務も関係ないところでしっかり仲間をまとめ上げている。
―ってすげぇな
そう思うと、アスマは思わず、口端を上げて鼻で笑った。
それに気がついた紅がアスマの方にまた鋭い視線が向けられた。
「何でもねぇ。…お前もが好きなんだな、と思っただけだ。」
「何言ってるの?…当たり前じゃない。」
アスマの口の端の上がった顔を見て、紅も同じように微笑んだ。
―のプレゼント…必要なもの…
どうせ浮かんではこない頭ではあるが、アスマも考えてみる。
今までのとのことを思い出して浮かぶのは、引越しのことだった。
あれだけと一緒にいたのも、話したのもそのときだけ。
の言葉や行動にやけに胸が高鳴ったのが体に蘇ってくると、思わず今でもドキッとしてしまう。
―そんなこと思い出すんじゃねぇ 必要なもの…
「あっ!」
「何よ!?びっくりするじゃない!」
アスマの思わずこぼれてしまった声に、紅の肩がビクッと反応する。
「思いついた、のプレゼント。絶対喜んでもらえる、実用的なもの。」
「本当に?何よ…」
アスマがそれを口にして、理由を話せば、紅が満足そうに微笑むのがわかった。
「アスマ、なかなかやるじゃない。」
「おう。たまにはな。」
アスマもその笑顔につられるように微笑んだ。
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「ねえ、アンコもういいって。」
ケーキ屋のショーケースをしゃがみ込んで眺めるアンコに、カカシがため息混じりに声を掛ける。
彼此もう、この状態が1時間続いている。
「まだダメよー。が何食べたいかわかんないじゃーない。」
カカシの声に振り返りもせずに、ただずっと品定めをしているアンコに、カカシはまた盛大なため息をついた。
それでも何も変わらず、ひたすらケーキを選び続けるアンコを予想はしていたが手も足も出ず、完敗であった。
―ダメだよね、ちゃんと止めないと
カカシとアンコがケーキ担当になったときのことをふと思い出して、カカシは腑抜けになっていた体に最後の力を振り絞った。
このまま負けを認めてしまえば楽ではあるが、大変な目に遭うのは自分だけじゃない。紅もアスマもゲンマも、だ。
カカシは大きく深呼吸を1回すると、意を決したように口を開いた。
「ほらにはゲンマのパンプキンパイもあるんだよ?紅だっていっぱい料理作ってくれるんだし。
ケーキだけが食べ物じゃなければ、今しかケーキが食べられないわけじゃない。
プレゼントも買わなきゃいけないんだからもうここ、出るよ。」
カカシが淡々と、必要以上に冷静沈着に、しゃがんでいるアンコの背中に向けて声を掛ければアンコがゆっくりと振り返る。
そこにはただ、壁に凭れかかってカカシがいた。
―わかってくれたみたいね
その、先ほどまでの呑気にケーキを選んでいた姿と打って変わって、カカシの様子を窺うような目をするアンコに
カカシはそう確信して、無表情だった顔を少しだけ緩めた。
「ごめん、カカシ。」
「わかればいいよ。ほらさっさと行くよ。」
カカシが店を出ようと促せば、アンコは素直に従った。
そして予約していた分と、季節限定のケーキを受け取った2人はケーキ屋を出て、もう1つの担当のプレゼントを考える。
「なんだろうねー、記念になるものって。」
「んーなんでもいいんじゃない?形が残るものなら記念になると思うけど。
だからどうせなら肌身離さず、いつも持っててくれたほうが贈る側には嬉しいなー。」
「そうね。でもさ、いつも持ってられるなんてもの、あまりないわよ?
こんな職業なんだしー。」
「そのあまりない中で、女の子がもらって嬉しいものってあるデショ?」
ケーキを崩さないように、ゆっくりを歩いていた2人がピタリと足を止める。
そして、“思いついた!”、と言わんばかりの笑顔を顔を合わせて浮かべる。
「あれね。」
「アレ。ちょっとベタだけどねー。」
「いいじゃない。それでも嬉しいわよ、きっと。」
先ほどより少し軽くなった足取りで、カカシとアンコは目的のものを買うべく先を急いだ。
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「よし、じゃあこのくらいだな。」
夕日が差し込み始めて、赤く照らされた資料室の中でゲンマが分厚い本を閉じながらそう言う。
隣で同じように、本や地図、報告書を覗き込んでいたはゲンマのその声にそれらを片付け始めた。
「大丈夫そうか?」
「ここにある資料は書き留めましたし、できるだけ頭にも入れましたから。
あとは実際に潜り込んでみて確かめるだけですね。」
「心強いな。」
そうニッコリと微笑むゲンマに、“そんなことないです”とは軽く微笑みながら答えた。
「はこれから予定あるか?」
自然の会話の流れで、計画していた通りにゲンマがを誘う。
手は一際分厚い本を掴んで、棚の上段へと運んだ。
「これからですか?特にないですよ。
あ、でも今日、実は私のた…
「そうかー!ないならちょっと一緒に来ないか?」
思わずの口から出そうになった言葉にドキッとしたゲンマの声は、部屋に響き渡るほどの大きさになった。
―バレたか?
銜えていた楊枝をキリッと噛んで、わざとらしく、コホンと咳払いをした。
「大丈夫ですか?少しこの部屋埃っぽいですよね。」
少し間を置いてからそう言うに、自分でも驚くほど心臓が早く打っていた。
キョトンとした、疑いも微塵に感じさせないそのの顔に、“そうだな”と答えて、ゲンマはほっと胸を撫で下ろした。
「これからあるところに行くんだが、も1度は行っておいた方がいいだろうし。
無理にとは言わねぇが、なにもないならどうだ?」
―本当は無理矢理でも連れてねぇといけねぇんだが
心の中でだけそうつぶやいて、の反応を見てみる。
少し考えた様子ではあったが、“わかりました”と笑顔でが答えた。
「悪いんだが、家で取ってくるものがあるんだ。
少しここで待っててくれるか?」
出していた資料を片付け、報告書を提出するとゲンマはにそう言った。
「わかりました。じゃあアカデミーの玄関で待ってます。」
「すぐに戻ってくるから。悪いな。」
「いいえ。」
が軽く微笑んでそう言うと、目の前にいたゲンマはポンッと瞬身で消えた。
―そんなに急ぐ用事なんだ
ただ、ゲンマが瞬身を使って消えたその様子を見て、はそう思った。
―ってゲンマさんどこ行くんだろう?
なんとなく聞きそびれてしまった本来ならば大切な部分に、“行っておいた方がいい”とゲンマが言った言葉を思い出して
悪い感じはしないその“どこか”を想像しながら、はただゲンマを待っていた。
アトガキ
すみません…!!
前編・後編の2部作の予定が、3部作になり、ついに4部作となることになりました…
本当に次の話で完結しますので!
できるだけ早くUPします!!
2006.5.2 up
ONE BY ONE 9*close